

「本日のご紹介は」

会員制の、たぬき用品の通販専門サイトがある。
扱っているものはたぬきに関わるものは何でも、と謳われていた。

ハロー！たぬチューブ！
本日のご紹介は、不思議な生き物たぬきの中でも特異な存在、豆たぬき！
大きさはかわいらしい親指サイズですが、中身は浅ましい大人なのです！
野良の豆たぬきは時にとても厚かましく、
害虫と同じように、あの手この手で、家屋に侵入してきます。
壁をよじ登ったり、しっぽで空を飛んだりーーー普通のたぬきには出来ないような移動手段が豊富ですからねぇ。
見つけたら、さっさと処分しないと居座ったり、食事を要求してきたりーーー困ってしまいますねぇ？
見つけたら、踏み潰すなり、叩き潰すなりするのが手っ取り早いですがーーー。
血も噴き出ますし、何より汚いですよねぇ。
部屋を汚された挙句、豆たぬきの体液を片付ける惨めな気持ち…イヤになっちゃいますねぇ。
集合住宅の場合、悲鳴も気になります。
そして豆たぬきに直接手を下せないアナタ！
本日は、そんな心優しいアナタに、ぴったりの追い出しグッズをご紹介します！



まずは、たぬきがいなくなるスプレー！
使い方は簡単、こちらの蓋を回して、ロックを解除。
あとはシュッと、噴いてみてください。
それだけでたぬきが居なくなっちゃうんです！

タヌキロイドという成分が空気中に舞って、口や皮膚から吸い込んだたぬきは痒みを発し、その後は苦しみ抜いて死んでいきます！

また、壁や床にも成分は残りますので
しっぽを引きずって移動した後、夜寝る際にしっぽを体に引き寄せた豆たぬきが寝ぼけてしっぽを抱きしめた時にも肌から浸透して効果を発揮します！

犬や猫、他の動物に害はありません！
たぬきだけを死なせるので、安心してお使いくださいね。
持続時間は24時間！お出かけ前にシュッとするだけで、留守の間もアナタのおうちを不埒な侵入たぬきから守ります！

では、使用例を見てみましょう。



「ふんふんふんしー♪」
家主がいない時間帯を見計らって、豆たぬきは壁をよじよじと這って登る。
家主が宅配の応対に気を取られているうちに足元から侵入し、ずっと隠れていたのだった。
「おっじゃましまーすしー♪」
言いながら、微塵も遠慮する様子はない。

「そうしー100%たーぬきー♪
   もうしょんぼるしーか　なーいしー♪」

ペットショップのたぬきが聞いたら発狂しそうな歌を歌いながら、リビングに置かれたテーブルまで上りきり、周囲を見渡す。
豆たぬきは大人でも通常の個体より小さく、生まれた頃よりほぼ大きくなれない代わりに、モチモチした肌を壁に貼り付けて剥がしてを繰り返して移動したり、しっぽを回して短時間ではあるが飛行するなどの特殊な能力を有していた。
よって、自分よりはるか頭上にある場所への移動は容易だった。
「あっ、おかしあるし！おかし！」
リビングにあるテーブルの中央ーーー深めの皿に盛られた、個包装のお菓子を見つけるが、探索を続けることにした。
「後で好きなだけ食べるし〜♪」
テーブルから部屋の全体像を見渡す。
部屋の中はしっかり片付いていて、隠れながら生活する場所を見つけるのは少し難しそうだった。
こんなにも整っていると、ついつい汚したくなる習性の豆たぬきだった。
「部屋の真ん中でうんちしてやろうかし」
自分で言って、両手で口元を抑えながら笑い出す。
足をじたばたさせて、大はしゃぎの様相だった。
「慌てる人間を見るのはスキだし！ししし！」
適当に怖がらせたり、盗み食いをし、住人の慌てる様子を観察し終えたら出て行く。
捕まるリスクを最小限にしながら、これまで好き勝手してきた豆たぬきだった。

散策を続けていると、部屋の隅で奇妙なものを発見した。
「何でこんな所にたぬきの服落ちてるし…？」
と、いうことは持ち主がいるはず。どこかに、全裸の豆たぬきがいるという事だ。
思い至った豆たぬきの取った行動は、
「隠しておいてやるし！全裸で出てくるがいいし！ししし！」
全裸でションボリする先駆たぬきを想像して、笑いが止まらない様子で服をくしゃくしゃに丸めて棚と壁の隙間にぐいぐい押し込んだ。
これで、もし豆たぬき同士で遭遇したり、人間に存在がばれたとしても優位なのはこちらだ。
服を着た豆たぬきと、全裸の豆たぬき。
どう考えても自分の方がマトモなので、何かあっても自分の方が助かると信じきっていた。
「変態は死ぬし！ししし！」


相変わらず、見える範囲で、動くものは何もない。
だから、“わからなかった。”
最初は、ただの痒みだった。
だが掻いても掻いても、おさまる様子がない。
赤みを増したモチモチの肌が、何やら熱を持ち始めた。
「何だしこれ…？この家おかしいし…！？」
気づいた時には、もう遅かった。
異様に、喉が渇き出した。
苦しい。苦しい…！
なんだか、呼吸がうまくいかない。
早くこの場を離れなければ。
しかし何故かわからないが、肌のモチモチが減少して壁に張り付けない。
飛行の際には、尻尾を回すことのみに力を集中させ、本体は脱力が必要なのだが、痒みのせいで集中できない。
「しっぽも乾いたし…カサカサだし…」
特有の移動手段を失った豆たぬきは、文字通り豆粒サイズの、か弱い生き物でしかなくなった。
「出して…出してしぃぃ…」
錯乱した豆たぬきは開くはずのないドアをモチモチと叩くが、もちろんそこにも成分が染み込んでいる。
触れる事で、タヌキロイドの成分が、より豆たぬきの身体を蝕んでいく。
確実に近づいてくる死に耐えられず、ジタバタしながら、
「ｷｭｩｩｰ…ｷｭｳｳ…ﾀﾇｩ…」
誰にも見られていないのに、媚びるような声をあげる。
熱い。まるで、皮膚を炙られるように熱い。
モチモチを失った肌は更にカサカサになっていき、やがて身体がしわしわに干からびていく。
あの場所に豆たぬきの服だけ残っていた理由がわかった。
先駆たぬきの遺品だったのだ。きっと、同じように苦しんでーーー。
じわじわと身をもって及んだ理解に恐怖の雄叫びをあげたかったが、
もはやカラカラになった喉からはﾋｭｰーと苦しそうな呼吸音しか出ない。
(やだし…なんでし…死にたくないしぃぃ…)
この世に生きてきた証を何も残せぬまま、
服だけ残して、豆たぬきは消滅してしまった。



お次の商品に移りましょーう！
豆たぬきは単独の場合もありますが、
何と群れを作り、そこで繁殖してしまう場合もあります！
ただでさえ小さいのに、さらに小さな豆たぬきを一匹ずつ仕留めるのは骨が折れますよねぇ。
そんな時は、こちらをご紹介しましょうーーーホウ酸ダンゴ！
こちら、見た目は白玉のようにシンプルで、ビーズ玉ほどのサイズしかありません。
ただ、匂いも味も、たぬきが好むようになっています。
こちらを一口でも齧れば、強い毒性によって体の中の水分を奪い、豆たぬきを動けなくし、脱水症状と呼吸困難で死に至らしめます！
さらに遅効性の毒で、持ち帰らせることにより、手の届かない巣の中を一気に全滅！

こちらも、使用例をご覧ください。



見つけたのは、探検ごっこをしていたちび豆たぬき達でした。
この家は掃除が行き届いているので虫に遭遇する確率は低く、子供達だけでも移動しやすい環境でした。
お昼ご飯までには帰るしーーー大人達にそう言われて、そろそろお腹がすいてきた頃合いです。
よく食べ物のカケラが落ちているキッチンの、棚と床との隙間に置かれた、お皿みたいな細長いプレートの上に、等間隔にダンゴが並べられていました。
手に取ってみると、触り心地はモチモチしていて心地よく、何だか好きなニオイです。
少し齧ってみるとほんのりとした甘さが口の中に広がりました。
「ｷｭｭｰ…これおいしいし…♪」
「ｷｭｳｷｭ！みんなにもってかえるし！」
仲間思いのちび豆たぬきは探検のお土産にと、意気揚々とダンゴを運んで帰ります。


大人豆たぬき達は、ちび豆たぬき達のお土産を不思議そうな顔で見つめました。
初めて見る食べものだったからです。
「これなんだし？」
「においは…ｽﾝｽﾝ…おいしそうだし！」
「見た目は…おいしそうだし！」
「でかしたし！」
ほめられ撫でられ、ちび豆たぬき達は言葉を忘れてｷｭｰｷｭｰﾀﾇｰ♪と喜びました。
しかし。
勢い余って一部の大人豆たぬき達がダンゴを食べつくしまいました。
ちび豆たぬき達は当然、抗議の声をあげます。
「ｷｭｰ！ちびたちが持ってきたのに！」
「てへへごめんし…また見つけてくるし！」
この場合の“また見つけてくるし”は
今度は自分たちが探してくるね、ではなく、
次もお前達が取ってこいし、という意味でした。
ちび豆たぬき達は目に大粒の涙を溜めながら、大人達への不満を隠せません。
｢ﾌﾞｳｳ…大人はずるいし…きたないし…！」
「今度見つけた時は持って帰らないし…！ｷｭｧｧ…！」


「さぁ、ご飯も食べたし、いったんお昼寝するし…」
家主が帰宅してから就寝するまでの間は、お風呂に入っている時間以外、豆たぬき達は身を潜め、本格的に活動する時間は深夜と決めています。
それまでは交代で見張りをしながら、仮眠をとって休んでいました、
群れ間の厳格なルール設定によって、繁殖しても生き延びてきたのです。
家主には、決してしっぽを掴ませません。
ですがこの日、何匹かの豆たぬきは永遠に起きてきませんでした。
自分のしっぽを掴んだまま、息を引き取っていました。
ちび豆たぬき姉妹もたぬき玉から戻ることはなく、そのまま動くことはありませんでした。


ダンゴの効果がしっかりと発揮され、群れはいきなり半分以下になってしまいました。
特にちび豆たぬきは身体が小さい分、少しの量でも効果的面でしたが、
持ち帰ったちび豆たぬきの中で、唯一の生き残りがいました。
第一発見たぬきのちび豆たぬき達は、ほとんどは食べ物と分かった瞬間に口にしていましたが、このちび豆たぬきだけは、後でみんなで仲良く分けるつもりで、ダンゴを食べずに置いていたのです。
そしてそのダンゴは、大人達が食べ尽くした際にも例外ではありませんでした。
結果として、このちび豆たぬきは死なずに済みましたが、
しかし、それが却ってよくありませんでした。


異変に気づいたのは、まだ発症していない大人豆たぬき達でした。
食べた量、身体の大きさに応じて、効果が出るには時間差がありましたので、まだ生き残っている個体もいます。
声をかけ、揺すってみても反応がない仲間達に、涙を禁じ得ませんでした。
ションボリとした空気が、一同を包んでいます。
「みんな…みんなしんだし…」
「朝まで調子よかったし…あのダンゴを食べたせいだし…？」
原因は、あのダンゴのせいである事は明白でした。
あのダンゴさえ、巣の中に持ち込まれなければこんな事にはーーー。
疑念を次第に確信へと変えていき、大人豆たぬき達はちび豆たぬきを取り囲みました。
「おまえのせいだし！」
「やくたたず！たぬごろし！」
「つぐなえし！」
「うちの子返せし…！」
先程はあんなに褒めていたのに、生き残りのちび豆たぬきは身勝手な大人に口々に罵られ、大人豆たぬき達は手を振り上げて叩いたり、短い足を突き出して蹴ったりします。
「ｷｭｰ！ｷｭｩｩ…ｷｭｩ…！」
やめて、やめてし！
ちび豆たぬきは耳を抑えるように身を屈めて小さくなりながら、必死に耐えました。
モチモチした手で叩かれても痛くはありませんが、暴力を振るわれているという事実に、心は痛みます。
しかし、その集団暴行は長くは続きませんでした。
1匹の大人豆たぬきが、自らの異変に気付きます。
「かはっ…む、胸が…苦しいし…」
振り上げていた手をちび豆たぬきに下ろさずに、胸を抑えはじめました。
その後は脱水症状を起こして動けなくなり、呼吸もままならなくなると、
「ﾋｭｰ…ﾋｭｰ…ﾀﾇｰ…ﾀﾇｰ…」
か細い鳴き声しか上げられなくなり、やがて呼吸と共に活動を終えました。
静かになった仲間を見て、大人豆たぬき達は慌てて手を突っ込み、吐き出そうとしますが、遅効タイプのダンゴなのでしっかり消化され、血液を通して豆たぬきの身体を駆け巡った後では無駄な行為でした。
「やだし…やだし！まだ死にたくないしぃぃ！」
「ちび…お前のせいだし…死んじゃうしぃぃ！」
往生際悪くジタバタしますが、抵抗むなしく、やはり脱水症状と呼吸困難を起こして全てが死に絶えました。

しんと静まり返った部屋の中。
呪いの言葉を投げかけられ、1匹だけ残されたちび豆たぬきはというと。
髪はくしゃくしゃになり、服はボロボロになろうと、身体的なダメージは大してありませんでした。
涙と鼻水まみれの顔で、這いずりながら何とか立ち上がろうとした時。
意地汚い大人の豆たぬきが隠し持っていた、ホウ酸ダンゴのカケラがコロコロ…と転がってきました。
食べ損ねてたけど、ずるい大人から取り返せたし…！と小さく喜びます。
ちび豆たぬきは、大人達と違ってこれが原因だと疑いもしなかったのでした。
自分達がこの惨状の原因だと、受け入れたくなかったから。
「やったし…やっとちびも食べられるし…ｸｽﾝ」
目の前の死体の山が、何が原因で築かれたのかも考えず、ちび豆たぬきは最後の晩餐を口にしました。
そして、その家から動く豆たぬきは全ていなくなりました。




たぬきの死体なんて見たくない！
たとえ服でも、捨てる時に触らなくちゃいけないのはイヤですって？
それもそうでしょう。
そんなアナタには、こちら！
粘着テントでーす！

こちらは、外用と違い室内用の仕様となっております。
野外では匂いは流れてしまいますが
こちらの室内用には、たぬきを引き寄せ、判断力を鈍らせる香料が仕込まれています！
また、粘着テープの床は踏み込むまで普通の床と変わらないようになっていて、警戒心の強いたぬきにも有効です！
『たぬき専用』『ご自由にどうぞ』などのプレートも付属していますので、そちらも併せてご使用ください！

では、使用例をどうぞ！



寝室のベッドの下、リビングのテレビ台の後ろ。使われていないふすまの奥ーーー。
広い家の中に、いくつかの家族が暮らしており、
それぞれが縄張りとはいかないまでも、生活圏を主張して暮らしていました。
ある日、その均衡が一つの物体によって破られました。
家主が、テント式の家を置き始めたのです。
家の中に、家がある。
その不思議な光景に導かれ、家主の留守中にわらわらと集まってきた豆たぬき達の疑問は、
豆たぬきに合わせたサイズ感によって解消されたのでした。
「これ…たぬき用だし？」
「いい感じのおうちだし！」
「何だかいい匂いもするし…落ち着くし」
豆たぬきにとっては特大サイズで、複数の家族が住むことを想定しているように思えました。
「たぬき達のためにおうち置いといてくれるなんて、見上げた人間だし！」
「え、いつも見上げてるけどし…？」
「確かに見上げてるけれども、そういう意味じゃないし！」
豆たぬき達は騒ぎながら、この家についてどうするか、それぞれに考えを巡らせていました。
こんなにステキなおうちを使わない手はないと、全員が同じような答えにたどり着いていました。
「たぬき達はここに住むし！」
「あっ…じゃあうちもだし！」
「これから仲良くするし…よろしくし…」
もしかしたら、家主が帰ってきたら正式に説明があるかもしれない。
たぬき達を迎えたいと、そのために用意したのだと。


ちび豆たぬき達は、普段はなるべく隠れるように言われているため、
こんなにたくさんの仲間達に巡り会うのは初めてで、それだけでも興奮気味でした。
「後でここに食べ物と…ベアルフくんも置いとくし…！」
「お気に入りの毛布も置きたいしー！」
｢ｷｭｯｷｭｳｳｰ!」
「おわったらいっしょに、たぬ鬼ごっこしてあそぶし…ｷｭｷｭ！」
 「フフ…ちび達も気に入ったようだし…」
はしゃぐちび豆たぬき達を見て、大人豆たぬき達はこれからの生活を期待し、胸を膨らませ、一つの群れとしてここに住むことを決めました。

引っ越し作業が始まり、それぞれの住処から色々なものが持ち出されていきます。
これから一緒に住む以上、協力し合わなければと、豆たぬき達は互いを手伝ってテントの前まで荷物を集め終えると、一休みする事に決めました。
作業は朝から始めたのに、太陽はだいぶ高くなっています。
異論を唱える者は誰もいませんでした。

「いやー、つかれたし…」
「この家、改めて移動するとだいぶ広いし…」
「家財道具や荷物の配置は、おいおい決めていけばいいし」
ということで。宴を始めるべく、全員がテントの中に入っていきました。
「まま、おなかすいたし！」
「ちび達もがんばったし…ｷｭｷｭ」
「きょうでみんなともだちになれたし！」
「それは良かったし…これからは友達じゃなく、家族だし…」
「感動するし…全たぬが泣いたし…」
豆たぬき達はどっこいしょ、と座り込みます。
とっておきのお菓子や、引っ越し途中の収穫物などを持ち寄りました。
なかなかどうして、このたぬ数でも満足できるぐらい豪華な食事になりそうでした。
「途中で見つけたこの白いおダンゴみんなで食べるし！」
と。
おー！と手を挙げようとして、豆たぬき達は床から手がべったりとくっついて離れない事に気がつきました。
「…何し？」


「え？どしてし？」
「ふつーの床だったはずだし…」
混乱した豆たぬき達の中には、ジタバタするために倒れ込み、そのまま起き上がれなくなった者もいました。
「あっあっ、とれないし…やだぁ…やだしぃ…！」
結局、その場にいる全員が、粘着テープに囚われていました。
「まま…ベアルフくんとってし…」
「毛布…ちびの毛布…かえして…ｷｭｳｳｳ…」
「ｷｭﾜｧ…ｸｩﾝ…ｸｩｩﾝ…」
ベアルフくんや布切れを引っ張ろうとして、ちび豆たぬき達がどんどん粘着テープまみれになっていきます。
無理矢理引っ張った手についていた粘着テープが顔を塞いでしまい、苦しむ子まで現れ始める始末でした。
「ちび…今助けるし…！」
言いながらも、親の豆たぬき自身も髪の毛やしっぽが引っ付いて、まるで身動きが取れなくなっていました。


ーーーどれぐらいの時間が経ったのでしょうか。
外も陽が落ちかけ、テントの中も薄暗くなってきています。
「や、やだじ……ずっとこのままなんて、や゛だじぃっ…」
見えない所から誰かのすすり泣く声が聞こえ、
見える範囲には息をしていない、動いていない仲間達もいました。
ある時を境に静かになったちび達は、疲れて寝てしまったんだと思いたい。
そう考えた豆たぬきのうちの1匹は、家主が帰ってきたらまずは挨拶をしてこれを外してもらうようお願いするし、それまでは頑張るし、と皆を励まして待ち続けました。
入り口を何か大きな影が覆い、テントの中が暗くなります。
こちらを覗き込む表情は見えません。
「あっにんげんだし…たすけ
プチュ
家主はため息をつくと、粘着テントを押し潰しました。



お次にご紹介しますのは、たぬクリーナー！
たぬき専用掃除機です！
こちらは、普通の掃除機とは違います！
何が専用なんでしょう？
実は、豆たぬきだけを狙って吸い込むことが可能な掃除機なのです！！
『駅の線路に落ちたワイヤレスホン専用掃除機』の技術を応用しており、
シルエットで判別することで、豆たぬきとそれ以外を選り分けて吸い込む事が可能なのです！

もちろん、ゴミや家財道具と豆たぬきを丸ごと吸い上げる通常モードもありますので、お使い分けくださいねぇ！

吸い込んだ後は、各社共通のたぬパックを取り出して、30分水に浸けておくだけ！
中の豆たぬきは全滅するでしょう！
　　
掃除機をご使用の際は、豆たぬきを1匹だけ残して放逐し、アナタの家の恐ろしさを語らせる事で、今後の移住を防ぐ事ができるのです！
もちろん、1匹たりとも逃したくないアナタは、全部吸い込んじゃってくださーい！

それでは、こちらも使用例をどうぞ！！


「あの…少し静かにしてくれませんかし…？ちびが起きちゃうし…」
仕事に疲れて、とりあえずテレビをつけて。
気晴らしにゲームをやっていたら、目の前に豆たぬきが回り込んできた。
何度か裾を引っ張っていたらしいが、全然気づかなかった。
わけのわからない苦情と、権利を主張してきた。
「ここは元々、たぬき達が住んでたんだし…」
引っ越してきたばかりの家に、豆たぬきの家族が住み着いていたらしい。
元の住民がいた頃からなのか、引っ越してくるまでの間なのかは知らないが、とにかく自分たちの家だと主張したいわけだ。
そして、家賃を払っている俺に慎んで生活しろと。
「今までがまんして、かくれてたけど…ちび達が毎日寝ぶそくで困ってますし…」
知らんがな。
道理で、あちこちに糞が落ちていると思った。
俺は豆たぬきに構わず、画面を注視し続ける。
幻覚か何かだと思う事にした。
「あ、あのっ…聞いてるし…？」　


「ｷｭｰ？まま、どしたし…？」
騒ぎを聞きつけてか、あるいは母親の不在を不安に感じてか。
ボロ布を引きずり、目を擦りながら3匹のちび豆たぬきが現れる。
かなり小さい。こいつら小指ぐらいしかないんじゃないだろうか。
そこが住処か。ちび豆たぬき達が現れた辺りの先を確認する。
床に近い壁紙の一部がロールカーテンのように捲れるようになっていて、穴が露出していた。
普段は下ろしてカモフラージュされているようで、気がつかなかったが、穴の奥には家財道具が見える。
どうなってんだこの物件。

俺はため息を吐いて立ち上がり、たぬクリーナーを持ってくる。
糞を見かけても、一向に犯たぬが見つからなかったので活躍の場がなかったやつだ。
強にスイッチを入れ、穴の中にノズルを突っ込む。
集合住宅の夜でも使える！と謳うたぬクリーナーの静音機能はかなり優秀で、
ガチャガチャガチャ！と音を立てて中のものが全て吸い込まれて行くのと、
「ｷｭｳｳｳｳ⁉︎」
「何だし…！？まま、どこだしぃ！？」
という悲鳴が非常に鮮明に聞こえる。これは凄い。


本来は大家に連絡を入れるべきなのだろうが、気が立っていた俺は今すぐこの状況を変えてしまいたかった。
「あぁぁぁあーー！？何やってるし！？まだ寝てる子もいるし！」
やはり、目の前にいる豆たぬきが全てじゃなかったのか。それは良かった。

豆たぬきは憤慨して、こちらに更なる要求を突きつけてきた。
「早く助け出すし！そして家具弁償するし！今ならゆるすし！」
「ｷﾞｭｳｳｳｳ！」
「おまえわるいやつだし！ゆるさないし！」
「いもうと返せし！ｷﾞｭ-‼︎」
ちび豆たぬきまでこちらに文句をぶつけてくる。
親が親なら、子も子か。
「もう一生面倒見…ｷﾞｭｴｯ!?」
親の豆たぬきを掴んで、ちび豆たぬき達から離れるように放り投げた。
小うるさいちび豆たぬきどもを、ノズルで薙ぎ払って黙らせる。
「ｷﾞｭﾋﾟ！」
「いたいしぃ！」
「ｳｪｪｴﾝ！」
「あっ…ひどいのやめてし…！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
そんな暇あるのか。
次は、ちび豆たぬきに向けて弱でスイッチを入れ、少しずつ吸い込むようにする。
「何するし…やめるし…！」
これから起こる事に気が付いたらしく、
頑張って走れば間に合う位置から、豆たぬきが駆け出す。
親子で最期のお別れが出来るように配慮してやった。
真っ先にボロ布を剥ぎ取られたちび豆たぬき達は、床にしがみつくように伏せていたが、どこにも掴まる所がない状況では、大して保つはずもなかった。
「ｷｭｯｷｭﾜｧｧｰｰｰ！」
「ままーーーーたしけてーーー！」
「こわいしぃぃーー！ｷｭｩｩｰ！」
「ちびぃぃいい！」
豆たぬきの眼前で、ちび豆たぬき達は母親に助けを乞いながら漏れなく掃除機の奥に消えていった。

伸ばした手は届かず、力なくだらんと垂らしたと思ったが、
豆たぬきはすぐ様こちらを向き、両手をモチモチと合わせて懇願した。
「お願いしますし！出してあげてくださいし！みんなとってもいい子なんですし！」
「じゃあそのいい子達が」
一旦言葉を切り、家主は豆たぬきを睨みつけた。
「新居のつもりで越してきた俺の生活空間のあちこちにうんこをしている事についてどう思う？」
「…元気でいいと思いますし…」
「親のお前がそれじゃ駄目だな」
掃除機の後部を開け、中からたぬパックを取り出す。家財道具も吸い込んだので、ガチャガチャと音がする。
これだけでもう中のちび豆たぬきは息絶えていそうだ。
洗面所に置いていた、雑巾を絞った後の水がまだ入ったバケツを持ってくる。
黒く濁った水面に、たぬパックをゆっくり下ろしていく。
カタカタ…何か音がするので、どうやらまだ生きているちび豆たぬきもいるようだった。
「あっやめてし！水に浸けないでくださいし！」
無視して続けていると、豆たぬきは威嚇の姿勢をとった。
「やめろ！ｷﾞｭｱｯ！」
「あ？」
「や…やめてくださいし…ｷｭｳﾝ」
子を守ろうとする本能から歯向かおうとしたが、一瞬の事でしかない。
凄まれ、萎縮した豆たぬきは情けなく鳴くほかなかった。

「お前だけ吸い込んでちびどもを露頭に迷わせても良かったんだがな」
「悪魔だし…」
「それじゃ俺の気がおさまらないんだよな」
悪魔呼ばわりに苛つき、豆たぬきの額を人差し指で小突く。
押し倒される形でジタバタする豆たぬきに、こらからなすべき事を説明する。
「お前は語り部としてここの恐ろしさを伝えるんだ。1日でも長く生き延びて、1匹でも多くのたぬきに教えるんだ。
“この家には絶対に近づくな”ってな」
「あの…ちびは…」
「これでいいか？」
バケツの中に浸け込まれているたぬパックを、たぬクリーナーのノズルで押し込む。
中の様子は見えなくとも、助からないのは明白だった。
「あ…あ…っ…ちび……ちびぃぃいいっ！」
そのまま摘まれて玄関まで運ばれた後、背中をポンと押され、玄関からたたらを踏んで押し出された豆たぬきは、閉められたドアの先を睨みつけた。
「ぜったい…ぜったいにゆるさないし…！」


語り部となった豆たぬきは外での危険な生活を送りながらも、
出来る限り多くの豆たぬきを探し出し、
そして、こう伝えて回りました。
「あそこの家は優しい人間が住んでいるし。ご飯をどれだけ盗んでも、そこら中でうんちしても許してくれるし。ちびのことも大好きだから家族で行くといいし…」
「そんな楽園があるし…！？ありがとし！」
「さっそく隠れてるちび達も連れて行くし…」
「でも何でそんな良い所から出てきたんだし…？」
「そっ、それは…もっとたくさんのたぬきに来て欲しいから、宣伝してきてって言われたんだし…！」
勘のいい豆たぬきに怪しまれながらも、語り部豆たぬきは実の多くの同族に、あの家の場所と入りやすい経路を教えたのでした。
「これで、ここら中の豆たぬきが押し寄せて行くし…あの家はたぬきに支配されるし…」
恨みだけで動く語り部豆たぬきは、たぬきのくせに目の下にクマを作り、憔悴した顔で笑いました。


その浅ましい考えもわかっていたので、
家主は見つけ次第侵入してきた豆たぬき達を掃除機で吸っていきました。
お陰で、近隣の豆たぬきの群れが一時はほぼ壊滅状態となりました。

こうして語り部豆たぬきは、知らず知らずのうちに同族を次々と死地に追いやりました。
いよいよ、外で教える相手がいなくなり、あの家はさぞ大混乱しているだろうと満足していました。
おそらく、自分はもう長くはありません。最後に、糞だらけ、豆たぬきだらけで蹂躙された家の中を一目見たくて、再びあの忌まわしい場所へ戻ることにしました。

残る力を振り絞り、壁を這いあがり、窓から部屋の中を覗き込みます。
しかし、そこに広がっていた光景は。
「あれ…？どうなってるし…！？」
背中合わせで輪っかを作らされ、幾重にも巻いた輪ゴムで縛られた豆たぬき達の姿でした。
「お前らのちびは、全部この中にいるんだけども、水に浸けるか悩んでる」
「やめてし…たぬき達が何したんだし…！」
「窃盗とうんこ」
「えっ…でも…」
「それって良いことだと思うか？」
「いけない事だと思うし…」
捕獲された豆たぬきは、バツが悪そうにションボリと答えました。
「だからこそ、許してもらえる楽園があるって聞いてやって来たんだし！」
豆たぬきの弁明は無視して、家主はパンパンに膨らんだパックの上部を開け、中身を確認しました。
ｷｭｰｷｭｰﾀﾇｰﾀﾇｰﾀｽｹﾃｼｰと好き放題に叫ぶちび豆たぬきが蠢いていて、だいぶ気持ち悪い眺めでした。パックの下部には、どす黒い染みが出来ていました。

「誰に何言われたんだか知らんけど、俺はたぬきが大嫌いなんだ」
家主はパックの上部を手で挟み、上下に振ってシェイクさせます。
潰さない程度の勢いでしたが、中から悲鳴の大合唱が聞こえてきます。
「話が違うしぃぃ！」
「あいつ…あの豆たぬき許さないし！」
「聞いてし！騙されたんだし…！」
「あの豆たぬきを探してくるから助けてし…！」
家主は豆たぬき達の泣き叫ぶ様より、スマホの画面に目を注いでいました。
そして突然、窓の方に顔を向けます。うっすら、笑っていました。
「あ、そこにいるわ」
何でわかったし…！？
語り部豆たぬきは心臓を掴まれたかのごとく驚いて、しかし高所から飛び降りる勇気はなく、まごついているうちに家主が近づいてきます。
疲れきった語り部豆たぬきが人間が歩くより素早く移動出来るはずもなく、捕まってしまいました。


粘着テープで出来たシートに座らされ、
語り部たぬきは周囲を見渡しました。
以前出会った豆たぬき達が、怨嗟のこもった表情を並べています。
「言っただろ？この家に豆たぬきが近づかないように恐ろしさを語るのがお前の役目だって」
「なんで…なんでし…おかしいし…」
「せっかく生き残ったのに、命を粗末にしやがって」
「家とちびを奪われて、生きてる意味なんか無いし…これはふくしゅうだし…！」
まるで立派なことを言っているように、豆たぬきは顔を上げ、家主をきつく見据えます。
ですが、そもそも前提が間違っていました。
「俺の家だ。そして、何もしなければあのままでいられたのに、生活を壊したのはお前自身だ」
「ｸﾞｷｭｳ…ﾀﾇｩｩ…」
「まあ、お前のこと一片も信用してなかったんだけど」
さりげなく非道い言葉を投げつけられ、語り部豆たぬきは余計にションボリしました。
何故か突然背中を触られ、
「さわるな…」
と言葉だけでも抵抗しますが、家主は何か指先に黒い物を摘んで確かめるだけで、直接危害を加える様子は無さそうでした。


家主は輪ゴムの拘束を外しながら語ります。
「さて、豆たぬき諸君。これからあいつを始末しないと、このパックを水に漬ける。
下の方は潰れて死んでると思うけど、俺にはどの子が君らの子かわからない。やり方は任せるけど、亡骸だけでも返してほしかったらーーー」
言い終える前に、解放された豆たぬき達は駆け出していました。

我先にと押し寄せる豆たぬきの波。
その表情はションボリしながらも上唇を血が出るほど噛み締め、眉間には深く皺が刻まれていました。
大切な子供と生活を奪われ、その憎しみを宿した表情。
きっと、さっきまで自分もあんな顔をしていたんだろうし。
それが、怒りの矛先となった語り部豆たぬきの見た最後の光景でした。
そして、静かに風を吸い込む音が聞こえた気がしました。




いかがでしたでしょうか？
ーーーおっと！最後の映像で、紹介していない商品が映っていましたね？
いやぁ、うっかりしていました！
申し訳ありませぇん！
というわけでこちら、“Tanuki positioning system”略して“TPS”になりまぁす！
こちらは豆たぬきの背中などに取り付けることで、位置情報を知る事ができます。
家の中で巣の位置を特定した後、一網打尽にしたり、
今回のように外に逃げた豆たぬきの追跡などに使えます！
ただし！たぬきのションボリによってしか動きませんので、あしからず！
こちらは高額商品となり、数量限定となります！
気になる方は、今すぐご連絡を！
シーユー！


ちなみにこのネット番組、今回は撃退グッズを紹介しているが、
たぬき飼育グッズも時々紹介している。
「あれ買って欲しいし！」とうるさい飼いたぬきにせがまれてこちらの動画チャンネルに合わせると、

こういった商品の紹介だった時、放送を見てからしばらくの間、飼いたぬき達は大人しくなるというーーー。


オワリ
